ERPは、本来、経営の効率化、経営資源の最適化を目的に、販売管理、購買管理、生産管理、在庫管理、会計、人事、給与、経費精算など、広範囲にわたる業務を一つのパッケージで処理し、業務の自動化、効率化を進めるシステムです。
1990年代以降、多くの企業でERPシステムの導入、利用が進んできました。2018年に経済産業省が発表したレポートでは、既存システムのレガシー化やITの進化等によって、激変するビジネス環境への対応の遅れから経済的な損失が発生する、いわゆる「2025年の崖」問題が指摘されていました。
ERPを導入した企業においても、この「2025年の崖」問題への対応として、早急な基幹システム刷新の必要性が叫ばれていました。
そこに登場したのが、この「ポストモダンERP」です。
「ポストモダンERP」は、ERPの業務領域を、核となる業務に絞って構築し、変化の激しい業務や不足する機能を他のアプリケーションから補完・連携して使用する、というものです。
例えば、ダイヤ改正や料金体系などが頻繁に変更になる交通費精算を含む経費精算業務を専用のパッケージで処理し、その処理結果をAPI連携によりERPパッケージへ取り込む、といった運用イメージです。
こうすることで、自社の強みとなる基幹業務部分をERPでしっかりカバーし、その他を含めた業務全般の効率向上を目指します。
さらにその先の概念として、業務ブロックよりもさらに細かい機能単位でプラットフォームに追加し、システムを構築していく形のERPの概念が、2020年にガートナー社から提唱されました。
それが「コンポーザブルERP」です。
「コンポーザブルERP」では、一つのERP製品ではなく、多くのサードパーティー製品を組み合わせたり、ノーコード・ローコードツールを利用したりするため、特殊な要件であっても柔軟に対応できると言われています。
また、コンポーネント間のAPI連携をきちんと設定することで、新しいソリューションの導入と既存のERPとの連携も容易になり、保守性の高いシステムを構築することが可能です。
例えば、ダッシュボード関連ソリューションを導入して、経営情報・社内情報を可視化するなど、新たにサポートする業務領域を広げていくことにも、迅速に対応できるようになります。
この「コンポーザブルERP」は、次世代のERPとして非常に注目を浴びているものですが、当然それを進めるにあたっての課題もあります。
まず1点目は、システムの複雑性が増すことです。様々なベンダーのソリューションを組み合わせて使用することになる為、そのインターフェースの定義をしっかりしておく必要があります。そのためには、ドキュメントの整備、管理の徹底、テスト環境整備などが重要な要素となってくるでしょう。
2点目は、細かい要件に対応できる裏返しとして、部署間のニーズ・利害の不一致による要件整備の混乱が挙げられます。
システム目的を明確にし、要件の優先順位を決め、部署間で事前の合意を取り付けて、システム構築を進めていく必要があります。
この「コンポーザブルERP」が、大企業だけでなく、中堅・中小規模の企業までどの程度浸透していくか、今後の進展に注目していく必要がありそうです。
※2024年3月のコラム内容に加筆・修正したものです。