2024.12.09

オンプレ回帰とは 現場の所感

オンプレミスとクラウド

復習となり恐縮ですが、オンプレミス(略称オンプレ)とは、企業がサーバや通信環境といった設備やソフトウェアなどを自社で保有してシステムを構築・運用する形態を指します。一方クラウドは自社では保有せず、それらを利用料の対価と引き換えに提供されるサービスとして利用する形態を言います。 

自社での管理負担が軽減され、資産として保有する必要の無いクラウドは、そのメリットは以前から認識されていたものの、日本では今一つその浸透率が伸びなかったのですが、奇しくもコロナ禍を経て、政府の強力な DX 推進のもと急速に広まりました。今や、クラウドサービスを一つも採用していない企業は無いと言っても良いでしょう。 

オンプレ回帰の広まり

急激な円安に伴い、$ベースで課金されるAWSやAzureなどいわゆる「外資系パブリッククラウド」は、費用が軒並み値上げされ、その結果「オンプレ回帰」という言葉が巷に広まっています。
オンプレ回帰とは、いったんパブリッククラウド環境で構築した自社のインフラ環境をオンプレミス(自社運用)環境に戻すことです。
このオンプレ回帰という言葉は今回の円安に限った話ではなく、本来パブリッククラウドを使っていろいろ見えてきた結果、オンプレの方が自社の運用にふさわしいという結論に至り、オンプレに戻すことを言います。

オンプレ回帰とその背景

新しいツールやシステムの導入、リプレースを検討する場合、クラウド利用前提に検討される企業も多いと思います。弊社にお問い合わせくださるお客様も世のトレンドの流れとともにクラウド形態を希望される方が大半です。

ところがここ1年ぐらい前から、時々「オンプレで運用したいが可能か?」とお問い合わせいただくお客様がちらほら。そうこうしているうち「オンプレ回帰」という言葉が聞かれるようになってきました。

オンプレ回帰とは、一度クラウドに移行したものの、そのメリットを予想以上に感じられず、自社でのサーバ保有・構築・管理のしくみに再度戻ることです。

事情をうかがうと、以下のような状況が見えてきます。
主な理由としては以下の3点が挙げられます。 

 ①予想よりコストがかかる 

例えば、オンプレミスはサーバを購入する必要があり、その他 OS ライセンスや必要なソフトウェアなど一通り揃えると初期費用が大きい。一方クラウドはそれらも一緒に利用料の中に含まれるので初期投資は抑えられ、使い始めのハードルが高くないので利用しやすい。

しかし実際のところ、多くのパブリッククラウドサービスが従量課金制であり、採用前にどれくらいの費用がかかるのかは予測しづらく、蓋をあけてみたら想定以上だった、もしくは使い始めは安価だったが、事業の拡大とともに取引量も多くなりコストもかさんできた、ということがあります。

またAWSやAzure 等海外のサービスを利用する場合は円安の影響を受けさらにコストが上がっています。コスト削減を見込んで採用したが、5 年比較だと費用だけでみるとクラウドの方が高くついたというケースもあります。

② セキュリティ要件を満たせない

自社の大事な情報を社外の環境に保管するのですから、会社としてはセキュリティ要件は厳しくなります。ただ、その要件に合致するシステムを予算内で探すのはかなり困難。現場は行き詰まります。

現行システムの保守切れが控えているといった事情がある場合、予算内で早く導入したい現場としては、その打開策としてオンプレミスの選択肢があがってきます。

③ パフォーマンスや利便性の低下

提供されるサービス内容にもよりますが、クラウド事業者のサーバを多数の企業で共有するサービス形態の場合、パフォーマンスに影響が出る事があります。またインターネットを介するためネットワーク通信がパフォーマンスに影響を与えます。自社に合った仕様に変えたいと思っても気軽にできず、サービスによってはマスター変更一つとってもベンダーに依頼しなければならないといったものもあり、不便を我慢する状況も生まれます。 

中小企業では人員構成も考慮

日本の中小企業の経営者に申し上げたいのは、この円安でクラウド利用料が高くなっているからといって、このような事例をもとに安易にオンプレ回帰やクラウド検討不可を決定してはならないということです。

これらの事例に出てくる企業のIT投資額は一般中小企業のレベルをはるかに超えており、そのIT資産を管理する人員も潤沢に用意されています。
オンプレ回帰の理由になる上記3つの要件を「パブリッククラウド以上のレベルで」構築・運用する体制が整っているからこそオンプレ回帰ができるのです。

残念ながら日本の中小企業のほとんどは社内ITインフラを管理できるスタッフが不足しています。オンプレ回帰した結果、スタッフの負担が増え、残業代や増員など人件費が増えたのでは意味がありません。
絶えず最適なインフラ構成を検討するという意味でオンプレ回帰を構築するのはよいのですが、こういった人員構成も含めて検討すべきです。

現場から見る今後の見通し

クラウド、特に SaaS タイプのサービスは、その導入ハードルの低さから、情報システム部門を通さず採用してしまう「シャドウIT」や「勝手SaaS」といった問題も出てきています。

では今後オンプレミスに戻ってくるか、といえばそれは少々考えにくい。我々はもうクラウドの便利さを知ってしまっており、今後もクラウドファーストでより良いサービスが出てくるでしょう。複数の SaaS サービスを一元管理するような SaaS サービスも出始めており、オンプレに戻るのではなく、クラウド利用をいかに安全に効率的に運用できるかの方向へ向かっていくでしょう。

以上はあくまで現場のお客様の声を聞く立場にいる筆者の所感ではありますが、いささかクラウド化を急速にしすぎた反動が、ここにきてオンプレミス回帰という現象を一時的に引き起こしているのではないかと思います。

とはいえ、目の前の現実を打開するためのオンプレ採用も決して間違いでは無いと思っています。そしてオンプレミス運用はやはりサーバ管理の負担もありますので、そういったリソースの確保ができない場合には、従来からあるホスティングやハウジングのようなサービスで管理負担を軽減しつつ、適切なクラウドサービスがあれば利用するなど、自社の方向性と身の丈にあったハイブリッドでバランス良く活用していけるのが理想ではないかと思います。 

まとめ

・オンプレ回帰は本来パブリッククラウドを使っていろいろ見えてきた結果、オンプレの方が自社の運用にふさわしいという結論に至り、オンプレに戻すことを言います。

・オンプレ回帰に至る理由としては以下の3つが挙げられます。

①コスト
オンプレに比べてランニングコストがかさむことを経営者が許容できない。
DropboxやひかりTVがオンプレ回帰の事例としてよくでています。
Dropboxはオンプレ回帰の結果2年間で80億円ものコストダウンに成功しています。

②セキュリティ
近年のパブリッククラウドの情報漏洩や、外部からの攻撃によるサービス停止などの事件から、クラウドのセキュリティを信用できない。
現行システムの保守切れが迫る等、予算内で早く導入したい現場では選択肢となり得る。

③パフォーマンス
大量データや大規模ユーザを想定した場合に、細かいチューニングができず最適なパフォーマンスが得られない。不便を我慢する状況も生まれる。

最近では自社で物理サーバを購入してサーバルームに設置することだけではなく、
プライベートクラウドやレンタルサーバー、VPC(Virtual Private Cloud)など、厳密にはオンプレと言えないものまで含めてプラットフォーム構成を選択できるようになってきました。
自社の人員構成と費用のバランスをみてインフラの構成をご検討ください。

※2023/7 編集記事に 2024/12/9 追記更新

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