SE日記 vol.1【ここまで中に入ってデモをしてくれる会社はなかった！】

ＥＲＰを導入するプロジェクトにおいては、ベンダーの選定に始まり、プロジェクトの立ち上げ、導入、本番運用に至るまで、様々なことが起きます。中には、想定外の事態が発生して大きな問題となるケースもあります。

筆者も、かつてはＳＥでした。お客様に対してこちらから苦言を呈したこと、お客様からいただいたクレーム、その反対に、お褒めをいただいた言葉など、その時々に鮮明な記憶が残っています。

年数の経過とともにその記憶が少しあいまいになってきているものもありますが、今まで経験してきたことが、読者の皆さんに少しでも役に立つことができれば、と過去の記憶を紐解いて、お客様からいただいた言葉やターニングポイントとなった出来事などをテクニカルな話ではなく、ＳＥの立場でどう考えたかといった観点から、綴っていきたいと思います。

まず、第１回のテーマは、これです。
『ここまで中に入ってデモをしてくれる会社はなかった！』

ここまで中に入ってデモをしてくれる会社はなかった！

もう15年ほど前の話になりますが、ある大手の企業グループの子会社からお問い合わせをいただき、自社で開発、販売しているＥＲＰパッケージの売込みを開始しました。

その会社は、食料品や飲料などを輸入する会社です。当然、パッケージとしては、輸入機能が必須なわけで、それを標準で装備している自社のパッケージの優位性が出せると、張り切って、お客様を訪問しました。

最初の訪問で、製品の主な特徴やお客様業務へのフィット感などを強調したところ、デモを見たいということになり、２度目の訪問で製品デモをすることになりました。当然、他にも何社か声を掛けられていたので、我々としては、自社製品の特徴を出さなければならないと考えていました。

お客様サイドで窓口に立たれていた方は、お若いのですが、テキパキと物事を処理される方で、きびきびした印象でした。デモの時、型通り、デモデータを使って一通りの流れを説明したのですが、どうも、お客様の腑に落ちないご様子。

「いかがでしたでしょうか？何かご不明点はございますか？」
と尋ねたところ、

「具体的なイメージがもうひとつ持てない。当社では、ｘｘｘといったケースがあるのですが、それに対処できるのでしょうか？」と。

「そのケースなら、ここでこうやるとこういう結果になります。」
と口頭で説明をしたのですが、どうも納得されないようでした。

そこで、これは、話し合うより見せた方が早い、と考え、お客様に
「もし、可能なら、実際のその伝票をここに持ってきていただけませんか？この場で入力して処理してみましょう！」
と訴えました。

ならば、と、お客様が実際に使用している伝票を持ってきて、デモシステムの中にデータを入力し始めました。

お客様の目の前で、実際の伝票を使ってデモ

輸入ですから、Purchase Orderからスタートするわけですが、Confirmationを受け、出港地側の手続き、インコタームズ（建値）による在庫計上のタイミング、輸入諸掛の按分、輸入後の保税管理などを、流れに沿って説明しました。

処理を進める都度に、入力したデータがこういう結果になる、とアウトプットの中身を見せながら、説明しました。この時は、製品の機能を説明する、という意識よりも、この伝票をどう処理すればいいのか、といったことに意識が集中していたのを覚えています。

最初は、２時間ほどの予定のデモだったのですが、気が付いたら、５時間ほど経っていました。お客様も私も夢中だったわけです。その最後に、お客様から言われたのが、冒頭の言葉です。

「ここまで中に入ってデモをしてくれる会社はなかった！」

とても嬉しかったのを覚えています。無事に、注文もいただけました。そして、この導入プロジェクトは、その後も大きなトラブルもなく、予定通り立ち上がりました。

製品デモの時は、通常、予め用意したデータを用いて説明することが多いですが、それでお客様が納得されたのかどうかは、すぐにはわかりません。このケースでは、あいまいなことをあいまいなままにしないで核心をつかもうとしたお客様と、そこに気付いて、一気にお客様の懐に入って、一緒に疑問を解決しようとした、こちらサイドの思惑が一致した事例となりました。

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