ERPを導入するプロジェクトにおいては、ベンダーの選定に始まり、プロジェクトの立ち上げ、導入、本番運用に至るまで、様々なことが起きます。中には、想定外の事態が発生して大きな問題となるケースもあります。
筆者も、かつてはSEでした。お客様に対してこちらから苦言を呈したこと、お客様からいただいたクレーム、その反対に、お褒めをいただいた言葉など、その時々に鮮明な記憶が残っています。
お客様からいただいた言葉やターニングポイントとなった出来事などをテクニカルな話ではなく、SEの立場でどう考えたかといった観点から綴ります。
第5回のテーマは『2か月での立ち上げは可能です。ただし、我々についてきてください!』です。
短期導入が至上命題
通常、基幹業務パッケージの導入は、フィット&ギャップに始まり、カスタマイズやアドオン要件の外部仕様設計、詳細設計・開発、テストを経て、データ移行、並行ラン(本番前稼働確認)を行って、本稼働に入る流れとなります。
一般的に、1年以上の期間を要し、早くても半年以上はかかるプロジェクトがほとんどです。
そんな中、今回は、2か月でプロジェクト着手から本番立ち上げまでいった、稀有な事例をご紹介させていただきます。
お客様は、フランスに親会社を持つ高級ブランド品の日本法人です。
日本法人自体が設立されて間もなく、会社としての業務オペレーションの確立に取り組んでいる時期でした。既に営業活動は展開されていて、受注した商品をフランスから輸入し、国内の販売店へ卸す業務が回っています。
但し、まだシステム導入がされておらず、すべて手作業で行っている状態でした。その為、少しでも早くシステムを導入して、業務の効率化を進めたい。
そこで、お客様から、何社かERPベンダーに声を掛けられたようですが、1~2か月でシステムを導入したいというお客様の要望に、どの会社も及び腰。当社にも当然、同じ要望が出されましたが、その時、他社からはすべて断られたと聞いて、「逆に、これはチャンスだ!」と考えました。
ご発注いただく前に、ベンダー側から釘を刺す
通常なら、冒頭に書いたように、基幹業務パッケージの導入には相当な期間を要しますが
・お客様の業務オペレーションがまだ固まりきっておらず、パッケージに合わせられる余地があること
・まだ規模が小さい会社だったので、窓口となる経理担当課長がすべてを取り仕切ることができ、即断即決できる環境があること
・取引先や商品などのマスターデータ件数もさほど多くなく、残高等を含めたデータ移行の難易度が抑えられそうなこと
などを考慮し、「弊社にお任せください。」と話しました。そこで、次に出てきたのが、タイトルにある言葉です。
「2か月での立ち上げは可能です。ただし、我々についてきてください!」
2か月で立ち上げるためには、乗り越えなければならない条件があります、とお客様に説明。
それは、
①業務処理をパッケージに合わせること
これにより、業務処理自体も標準化でき、かつ、カスタマイズにかける時間とコストをカットできます。どうしても必要な業務要件が出てきたら、本稼働後にカスタマイズの可否検討を行いましょう。
②最大のポイントは、データ移行
日々の業務でお忙しいとは思いますが、取引先や商品などのマスタデータはお客様自身に作っていただかないといけません。Excelのこのシートに入れていただければ、取り込み作業はこちらで行いますので、特に、ここのスケジュールは厳守してください。
③工程を遅らせない
日々の業務で忙しいとは思いますが、予定したことは予定した期日まで終わらせていかないと、遅れがどんどん大きくなっていきます。残業覚悟でいけますか?
④操作教育は、立上げ当初から使用しなければならない担当者に限定すること
関わる人が多ければ多いほど、全体が操作習得するのに時間がかかります。社内全体への操作教育は、本稼働後、社内教育の形で進めてください。必要であれば、立ち会います。
覚悟を決めたお客様
これを、営業の早い段階で、お客様に伝えました。確か、2度目の訪問でデモを見せた時だったと思います。
今回は、お客様自身に相当な覚悟をしていただかないと、プロジェクトはうまくいかないと考え、この条件を説明し、お客様の反応を伺いました。尻込みされるようなら、こちらも引き下がるつもりでした。
そして、3度目の訪問の時、
「何としても2か月で立ち上げなければならない。よろしくお願いします。」というお言葉とともに、お客様から注文書をいただきました。
その翌週から、もう作業開始です。フィット&ギャップからスタートする通常のプロジェクトだと、週1~2回の打合せペースだと思いますが、今回は、週3回ペースでお客様を訪問し、打合せ、操作説明、データ移行作業支援等を行いました。
日常業務を行いながら、でしたので、夜、お客様を訪問して打合せをすることもありました。
本当に、短期集中の作業でしたが、予定通り、2か月に本稼働までたどり着くことができました。
ERP導入において重要なこと
色々な条件が重ならないと、2か月での基幹業務パッケージの導入は実現できません。
それを行えたのは、もちろん、お客様ご自身の努力の賜物ですが
SEの立場でできることは、
・お客様に覚悟を決めていただくこと
・お客様側のシステム導入に関わる要員を増やさないようにすること
・日々の業務の多忙さの中で、システム導入に遅れが出そうになっても
それを言い訳としないようSEがお客様を叱咤激励し、一緒に汗をかくこと。
を痛感した事例でした。
次回は、vol.6:「(1回のデモで)おたくに決めます!」をお届けします。
※本ケースは筆者の経験談であり、すべてのお客様に当てはまるものではございません。予めご了承ください。
【筆者略歴】 某大手メーカー系IT企業に35年勤務。 経営企画部門を経て、ERPパッケージの導入担当SE、及びプレ営業を15年ほど経験。その後、同パッケージの拡販推進、マーケティング、プロモーション等を担当。現在は(株)ビジネス・アソシエイツにてマーケティング業務に従事。 |