第3回のテーマは『現場の事務を取り仕切っている方、発言力の強い方をお呼びください!』です。フィット&ギャップの進め方に関してのお話です。
旧態然とした従来のやり方を見直す
今回ご紹介するお客様は、包装資材・物流資材等の総合商社で、システム導入当時で創業50年を超える企業です。
受注が決まった後、プロジェクト立上げのキックオフ会議を行い、フィット&ギャップの作業がスタートしました。メンバー構成は、PMに社内企画部門のマネージャー、PLに総務経理部門のマネージャー、プロジェクト統括責任者に総務部門担当役員が就き、営業部門のマネージャーが加わる、という構成でした。
例によって、パッケージの説明に合わせてお客様業務の流れをヒアリングしていったわけですが、どうも細かいところになるとお客様の説明があいまいになってきます。
しかも、旧態然としたやり方を続けている部分もあり、世の中の法制度が変わってきている状況下で、社外監査を受けると明らかに改善指導を受けると思われる箇所もいくつかありました。
その都度、「このままでは、法に違反することになりかねません。今回のパッケージの導入を機に、従来のやり方を見直し、改善していきましょう。」と、お客様に提言していきました。
お客様からは、「どの部分が違法になるのか?」と聞かれ、都度、具体的な箇所の指摘となぜ違法になるのか、も説明していきました。
徐々に、お客様の表情も変わっていきます。「これは、ちょっと大掛かりな業務の見直しになりそうだ!」という空気が流れるようになってきました。
ウチは、現場の方が強いんです!
パッケージに合わせられるところは、極力、パッケージに合わせていただき、どうしても譲れないところは、最低限のカスタマイズをすることで、すり合わせを行っていきました。
途中からは、関東や関西の営業所長にも加わっていただき、中身を詰めていきました。2か月近いすり合わせを行って、業務フローと処理プロセスの外部仕様をほぼ固めたところで、お客様から、心配の声が。
それは、
「ウチは、現場の営業事務の女性の声が強くて、慣れ親しんだ今までのやり方を大幅に変えることにものすごい抵抗が出ることが予想されます。どうしたらいいでしょうか?
特に地方の営業所の事務の方の声が強いのですが。」
とのこと。
皆、不安そうでした。私も、それを聞いた時は、どうしたものか?と悩みましたが、
「待てよ!これは、逆にチャンスじゃないか!その事務の方々の主要メンバーを納得させられたら、このプロジェクトは、一気に前に進むのではないか?」という考えがふつふつと湧いてきました。
そこで、出たのが、冒頭の言葉です。
「現場の事務を取り仕切っている方、発言力の強い方をお呼びください!私が説明します!」
さて、説明会には、全国から10名ほどの、強者の女性事務員の方々が参加されました。
その方々を前にして、新導入のパッケージの画面と操作手順の説明をし、その都度「現在行っているxxxの処理に関しては、今後はこの画面でyyyという形で処理することになります。最初は慣れるまで不安もあると思いますが、逆に今までやっていたzzzといった手間がなくなり、皆さんの作業がラクになります。」
といったように、できるだけメリットを強調するよう意識しました。
質問もかなり出ましたが、最後に、一番の強硬派と思われる女性から、
「わかりました。ご説明ありがとうございます。これから、このシステムと仲良くしていくことにします。」
という言葉もいただきました。
社長へのご挨拶
無事に説明も終わり、フィット&ギャップ作業完了後の整理見積で、カスタマイズが若干増えたことで、追加分の費用提示をしました。プロジェクトメンバーからは合意をいただきましたが、最後の社長決裁がなかなか下りない、是非、同席して社長の前で説明してもらえないか、とのこと。
PM、PL、PJ統括責任者の方と一緒に社長のところに行き、名刺を出そうとした時に、PMの方から「今回のプロジェクトの、我々の先生です。」と私を紹介されました。
驚いたと同時に、そういうふうに感じておられたのか?とあらためて思いました。私の方に行き過ぎた発言があったかもしれないのに、謙虚にそれを受け止めて、会社の改善のために前向きに検討され、最後には全社で一体感を醸し出し、プロジェクトをまとめ上げていく。すばらしいPMでした。
プロジェクトとしては、追加の注文もいただき、工程も遅れることなく、無事に立ち上がりました。フィット&ギャップの時に、いかに現場を巻き込むことが重要か、を身をもって経験した出来事でした。
ERP導入において重要なこと
・フィット&ギャップにおいては、プロジェクトメンバーとのすり合わせだけで解決できるとは限らない。 必要であれば、実際に現場で作業をしている方に意見を聞き、踏襲すべき部分と改善すべき部分を整理して、なぜ改善しなければならないかを根気よく説明していくことが重要。これは、SEの力だけでなく、お客様側のプロジェクトメンバーの力に負う部分が大きい。
・現場の方にヒアリングするときは、できるだけキーマンに対して行い、キーマンを納得させることが プロジェクトを前進させるポイントとなる。
プロジェクト導入当初のフィット&ギャップで、いかにして全社を巻き込むか?
ERP導入に関わる方にとって悩ましいことだと思いますが、少しでも参考になれば幸いです。
次回は、vol.4:「社内の議論は、外(ほか)でやってください!」をお届けします。
※本ケースは筆者の経験談であり、すべてのお客様に当てはまるものではございません。予めご了承ください。
【筆者略歴】 某大手メーカー系IT企業に35年勤務。 経営企画部門を経て、ERPパッケージの導入担当SE、及びプレ営業を15年ほど経験。その後、同パッケージの拡販推進、マーケティング、プロモーション等を担当。現在は(株)ビジネス・アソシエイツにてマーケティング業務に従事。 |